⇄(複線)/凛々椿
 
さよなら
東口にて

 
ひかりの複線は尾を散らし
僕を底知れぬやみへとおいてゆく
風つよく
背筋から心臓へ
夜更けにはきっと雪になるだろう
新月の雪だよ
青白いはかなさだ
照らされることのないうつくしさ
黙々と降りつむばかりで
地に染む音も
秘めごとのよう


コーヒーの匂いが少し恋しくて
といっても僕はコーヒーは全く飲めなくてね
いつもいっしょだった人と
百番地の片隅
いつも同じ喫茶室で
みどりのバンダナを頭に巻いた白ひげのマスターと
ずらりと並ぶ雑誌や新聞や
ツバキの鉢花
火曜日のビジネス街の闊歩とともに
くゆる匂いに少しだけ
嫉妬を

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