鬼灯/salco
 
てみれば充分のような。否、思いなせば不足のような。
    三十、三十。いかにも宙ぶらりんな嵩。否、否、さればこそ。三十と
    言えばそなたを元服させた齢。肩の荷降ろした心持とて、わしはまだ
    まだ若くあった。若くあったぞ。 

男   はて、元服の時。さてもあの朝、母上はそれがしを御覧になり、わし
    とて老いた道理よと、しとど涙に暮れられたような。

般若  はてさて、とんと覚えぬが。

男   さても御身の覚えとは、事と次第によりますな。

般若  そうじゃ、そなたも身を固め、子を生すがよい。いつまでも独り身で
    ふらふらしておれば、気楽もいつや
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