滑車の前で/木立 悟
滑車の前で 光を背に
腕をひろげて 動けずに
崩れ重なる門の残骸
霧を貫く鉄の橋から
したたる滴を聴きつづけていた
霊はいて
雪の地に立ち
応えを受ける
霊は霊に
応えをわたす
衣の奥の明るさが
地の影を立ち上がらせ
軽やかな口もとの導きが
雲を夜の火に触れさせる
道に降り立つ鳥の背後で
こぼれ落ちては鳴り響くもの
かつて門が立っていた地に
離れたままにあるものたちが
同じ一瞬の空を聴く
刹那の水を照らして消える
遠い遠い閃きを聴く
雲のむらさきを浴び
無い水のなかに立ち
無い影をつくるもの
上にも下にも
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