ホチキス/夏美かをる
 
一緒にランチを食べたよ。
先生の部屋で私とレイだけが食べたよ」
学校では殆ど口を利けない娘が
翌日学校から帰って来て 
学校のことを話し始める
ぎこちない言葉で
嬉しそうに話し始める

膨らみかけた桃の蕾のようなその唇から
花珠色した言の葉の連なりが
はらはら溢れ出ているのを不意に見つけた私は
慌てて私のホチキスを取り出して
パチリ、パチリと束ね留める
ほんの小さな一片でさえ無くさぬように
連なりの全てをしっかり束ね留める

そうやって出来上がった
不格好で不揃いで
表紙もないノートブックが
娘の名前のついた引き出しに
これから何冊も何冊も仕舞われていったらいい

「今日は支援のクラスでカップケーキを食べるんだよ。
シルビーが最後だから」
そう言って、娘はまたスクールバスに乗って行った
柱時計の音だけがこだまするリビングの
テーブルの上 花瓶の隣
無造作に置かれたホチキスが
大きな口をポカンと開けて
今日も娘の帰りを待っている

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