仮定する/佐々宝砂
 
満月の夜に三度続けて風が鳴いたら
五十年間誰も触れたことのない箱を開いたら
雨の日に空を見上げ濡れて歩いたら
六分間息を止めていられたら
衣装だんすのなかで外套にくるまったら
布団の中でまじまじと目を見開いたまま眠ったら
一杯のお茶に茶柱が八本立ったら
晴れた朝ひとつも雲のない日にヒコーキ雲を見つけたら
質問することがなにひとつないと思えたら
ネクタイしめたとたん四十雀(シジュウカラ)に変身したら
そこにいない男を階段に見つけることができたら
星がみんなみんな落ちてきたら
そうしたら

いま、逢いにゆきます。
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