鶴の恩返し/salco
進歩は昔話を撲滅する
あんたの事は食わしちゃる
あたしが部屋で何しとるかは
詮索せんといて
覗きでもしたら出て行くきね
女房のオツーはそう言って襖を閉め
日がな何事かをする
百姓のヨヘーは朝が早いので先に休み
明け前に起きれば
湯気立つ朝飯を膳に並べてオツーが侍る
それからコビルの握り飯を持たされ
田んぼに出かけるのだった
長雨で稲が腐れ出した夏
オツーはJAの通帳と印鑑を
ヨヘーの前についと出した
三百万ほど入っている
心配せんといて
あたしがあんたを食わしちゃるき
そう言いにっこり微笑んだ
その秋は平年の三分の一しか収
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