夕暮れバス/ナラ・ケイ
眼を開けると
ほかに乗客はいなかった
確かめたはずが
行き先を思い出せない
どこから乗り
どれだけ乗っているのかも
東側の山のふもとだけ
西日が射し込んで赤い
バスは進み
夜がおりはじめる
眼中に残された赤が
額と頬に映り
熱となって
胸にたまる
熱を逃がせないことだけは
わかっている
座席と振動は古びて
体になじんでいる
行き先を忘れたまま
乗り続けてはいけない
わたしは振動をふりはらって
バスを降りることに決めた
日が落ちきる前に
熱がわたしを動かしてくれるうちに
もういちど行き先を
確かめるために
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