残像/ただのみきや
 
一巻の蝶がほどけ
色と熱を失った記憶の羅列が
瞬きもせずに四散する
錐揉みの燃える落日に
ことばには満たない鱗粉が
乱反射しながら霧散する


重力が半減したかのように
その長すぎる一瞬に 面影は
半旗がゆっくりと 翻るように


月は太陽の裾で身を覆い
貴族のように夜を行き来するが
その正体は骨で埋もれた白い墓
笑みも抱擁も凍えるほどの美しさ
孤独に飽いては夜な夜な手招きをするのだ


地上では飛べなくなったものたちをあさる
蟻よりも利己的な虫のことを普通の人と呼んでいた
一人の手際が悪い分お喋りな男が
翅を失くした女を暗い穴の底へといざなった

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