ぜいたくな捨て猫/綾野蒼希
バス停の――屋根の下の段ボール箱の中で
仔猫が三匹震えながら鳴いている
この子たちのおうちはここなの?
年端も行かない女の子が言った
着物を着た母親はひっそりと微笑んだ
帽子を目深に被った男の子は俯いたままだ
この子たちはこれからどうするの?
しばらくしてまた女の子が言った
母親はなおも笑顔で若草色の襟元を正し
それから大きな風呂敷包みを持ち直した
男の子はじっと地面を睨みつけている
この子たちはきっとぜいたくなんだね
バスが到着した時またもや女の子が言った
母親は泥のように声を立てて笑った
男の子は段ボール箱に向かって唾を吐いた
ドアが閉まり排気ガスが噴出する
どこからか六十代前後の女性が走ってきて
顔をくしゃくしゃにして泣きながら
おくさまぁどうぞおたっしゃでぇ……
と両手を目いっぱい振り続ける
おくさまぁ……
おたっしゃでぇ……
おたっしゃでぇぇぇ……
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