板書/
月形半分子
絵のなかで暁の町を背にしていた。大きく見開いた目に赤い筋を浮かせ、真っ正面を凝視したまま、ヒタヒタと波に揺れる桟橋に立ちつくして動かない。桟橋には漁船や小船が連なり、その隙間からターコイズブルーよりもいっそう肌寒い青白い霧が立ち上り、彼の唯一教師らしいキャラメル色の靴を覆っている。桟橋から先は見えない。霧で見えないのだ。筆を置いた彼が、人差し指を親指で2、3度擦る。それは、教室で教師がいつも板書し終えた時に、生徒にして見せる合図だった。
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