貨物/salco
 
ラッシュアワー
千本足の林立の狭間
スーツケースからはぐれた
よそ行き幼児が泣いている
わめき声は動物じみて
朝を病んだ善男善女の苛立ちを
憎悪域にまで掻き立てる
半ばは勤労地獄に子を詰める
どこぞのお馬鹿な親に向け
こんな筈じゃなかったと
幼児はどしゃ降り頭の中で
生まれて以来何十度目かの思いのたけを
あぶくのように吐き出しながら
汗と涙と恐怖に湿った
塩辛い火の玉のよう

がらんと昼下がり
最後尾の一隅で
空のブリックパックを数珠さながら
節くれ立った指でまさぐりながら
呟き続ける老女がいて
目的地と切符を持つ
ありとあらゆる人を呪うよう
人は好奇の目を向けて
無関心へと目を反らし
やはり聞き耳は立て所在ない目を
流れ去る窓外の
見るも見飽きた風景の上に固定する
掌中にあるものの嵩高で
贅は量れぬまま
都市生活の小さな歪みを軋らせながら
網の目路線は郊外へ郊外へ
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