鮫島太郎の告白/吉岡ペペロ
川岸を包囲した。
鮫島は高田を包囲した。個体として。人生の一点を。
鮫島には罪悪感はなかった。
「みんなおまえの被害者なんだよ」そう呟いていた。
そしてよこにいる明美を見遣った。
明美が叫んだ。
「開くーん、開くーん、」
高田開彦が振り返る。
瞬く間に高田が捕われる。
明美が鮫島にしがみつく。
鮫島は夕陽が眩しくないのをいぶかしんだ。
横目に覗くと暗くて涼しい川面があった。
明美の髪の香りのようだと思った。
組み敷かれる高田となんどか目が合ったような気がした。
かいがいしく動く警察官たち。自分だけが停止していた。
取り残されてしまった。
今夜も明美を抱くのだろうか。
高田を乗せた車が動き出した。それがサイレンを鳴らしながら去る。
それに向かって質問にもならない問い掛けを彼は発し続けた。
明美にも確かめたかった。
返ってくる言葉はいつも通りの「もうそんな次元の問題じゃないの」だろう。
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