歳神様/吉田ぐんじょう
大晦日は
子供部屋のとびらを
あけておかなくてはならなかった
トシガミサマが来るので
トシガミサマ
というものがなにで
どんな姿をしているものなのか
わたしは知らない
ある年の夜中だった
真っ暗な子供部屋のなかで
眼だけあけて息をしているとき
何者かが裾を引きずって部屋に入ってき
くちびるにそっと触れるのを感じた
翌朝
歯磨きをしながら
わたしたち兄弟は顔を見合わせ
眼を丸くした
確かに昨日まで
欠けたり蝕まれたりしていたはずの
各々の歯
そのいっぽんいっぽんが全て
夜のうちに
新しい歯に替わっていたのだった
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