マリアと犬の夜/TAT
 
 マリア・ローゼンタールはその日、職場で四回ミスをした。しかし本当に彼女の過失で起こったミスはその内の一回で、それは常連を気取った貧民上がりのワルクス人が不明瞭なLとRを混ぜた発音で姓を名乗った為だった。マリアよりも七つも若い二十二歳のアダージョはいかにも尊大な態度で新米社員の過失を赦し、その見返りとして彼女は自らの恋人と赤裸々な電話を交わしていた。それも最も繁忙な昼食前の三十分間の職務をボイコットして。秋の始まりの頃、グリーボールを嗜む富裕層の予約電話はスタジアムのフーリガンよりも節操が無い。次々に鳴る電話の対応に追われながらもマリアは仕事を捌いた。彼ら彼女ら(忌むべき悪鬼)が不躾に投げて寄越す
[次のページ]
戻る   Point(1)