旅情より/HAL
 
結局 この国が失ったものは
任侠という精神だろう

任侠を暴力団に擦り代えることで
強きものを挫き弱いものを救うという
ひととしてしごく当然のことを

捨て去り邪険に扱うことで
多くのひとびとは不遜にも
任侠を否定することを善と呼び悦にすら浸る

その善がいつしかお年寄りに席を譲らず
ぶつかっても詫びの言葉ひとつも掛けず

なにかが起こるとだれかのせいにしたり
社会や政治のせいだと言うようになって
政治家だけでなく市井のひとも腐っていく

でもだれひとりとして反省や自省の言葉は
そのひとたちの辞書には載っていない
だが楽して得するあざましさには聡い


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