線路/藁谷 正太
 
あの歌が気軽に歌われていたころ
あの歌のことはみんなが
わかっていた
あの歌が
気軽に歌われていたころ
あの歌は
線路の上で寝そべったって平気だった
あの歌は
いくらお酒を飲んでも
酔っぱらわなかった
あの歌は
空気みたいに
透明に通り過ぎて行った

何度でも
何度でも
線路の上にまたがって
眠りこけたものさ

僕は今日
久しぶりに
古い駅で降り
線路沿いをずうっと歩いた
でも
いくら歩いても
出会えないんだ
あの歌に
あの歌は
そういうと
いつしか
血反吐になって
君のスカートにこびりついた
君のスカートは赤いチェックだったので
ほとんど気にならなかった
そうしたらそのうちに
今みたいになっちゃった

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