荒業地帯のパペット/ドクダミ五十号
 


着替えるほど菜っ葉服は労働しておらず

ポケットの中の二百円を握り

ご苦労様の声のする守衛所でバッジを見せ

活気の失せた巷の遣る瀬無い家路へ

男は思い出していた

油臭い菜っ葉服の若い俺は

勢い良く胸を張って巷を横切った

機械的に家路を急ぎはしなかった

酒屋の奥の立ち飲みカウンターで

店主が界面張力を遺憾なく操るを眺め

魚肉ソーセージのケーシングの艷やかを撫で

爽やかな疲労を二級酒と共に楽しんだ事を

そして呟いた

単純労働は機械の仕事

そうか

俺は機械になっちまったんだな

機械以上に

その呟きはシャッター街のコンビニの

のぼり旗のはためく音より

はるかにロー・トーンなので

風さえも攫って行くのを躊躇うのだった

工業地帯の憂鬱は煙突の先からの

浄化された無色なのであろう

戻る   Point(4)