母なき子を抱く/川上凌
 



母無き子の嘆く声を聴き

五本指の感触をこの腕に留めても


分からないのです

あの子の苦しみ悲しみが

どちらに向かっているかさえ

分からないのです

我が幼子の感情が


泣きたいのです

私とて ひとりの幼子の母として

置いてゆかれた ひとりの女として

泣きたいのです

母無き子が夢見るとき

我が幼子の寝顔の横で


それでも私は抱くのです

わたしが抱かなければ

この子の生命(いのち)の朱(あか)は消え失せる

消え失せたところで

世界は決して変わらない

けれども私は抱くのです


脳の髄から押し寄せる

母無き子の嘆きにこたえるように






戻る   Point(5)