母なき子を抱く/川上凌
母無き子の嘆く声を聴き
五本指の感触をこの腕に留めても
分からないのです
あの子の苦しみ悲しみが
どちらに向かっているかさえ
分からないのです
我が幼子の感情が
泣きたいのです
私とて ひとりの幼子の母として
置いてゆかれた ひとりの女として
泣きたいのです
母無き子が夢見るとき
我が幼子の寝顔の横で
それでも私は抱くのです
わたしが抱かなければ
この子の生命(いのち)の朱(あか)は消え失せる
消え失せたところで
世界は決して変わらない
けれども私は抱くのです
脳の髄から押し寄せる
母無き子の嘆きにこたえるように
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