夫婦/かや
 
内科につれていって
眠れないから、と
夫にいう
夫は頷き
やけに尖った車の鍵を取る

ちゃらり、と手のひらが鳴る


大きい車は苦手だったはずが
高い窓から外を見るのにも
慣れてしまって
口ずさむ歌は昔のそれではなく
夫が選んだ知らない曲に
ただ音を合わせている



私達が
夕日の滲む頃にしか
出掛けられなくなったのは
いつからか

彼の横顔はどんなだったか


重いドアを開けると
夜の始まりの匂い
夫の声を聞く

だいじょうぶ
ありがとう、

宵闇を背に笑う
そうするしか知らない
媚のように

だいじょうぶ、
もういちど言う

だって、


たとえそれが正しくても
嘘みたいな朝が来る




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