私語硬直/木屋 亞万
俺は話がしたい
壇上に立って
聴衆に聞かせたいことがある
常日頃から思い募ってきたこと
ぼんやり座っている奴らに浴びせて
腑抜けた日常から目覚めさせてやる
息巻いて
照明の降り注ぐ舞台に上がると
途端に何を言いたかったのか
思いのたけの言葉の端を見失ってしまう
緊張しているからではない
最初から言いたいことなど存在しなかったのだ
俺が見てきたこと聞いたこと感じたこと考えたこと
何一つとってみても
わざわざ人に伝えるほどのことはない
俺はただ壇上に立ちたかっただけかもしれない
じっと見つめられても
ミンチになった言葉しか漏れない
平凡で退屈な雑談をして
後悔と恥
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