アメリカという国の学校という場所/夏美かをる
らね。
バンって音がしたら
近くにある何かの陰に
体を小さくして隠れなさい」
「銃ってなあに?」
「ガンだよ」
「ふ〜ん。ねえ、それはお母さんが側にいない時の話?」
「そうだよ。お母さんが近くにいたら
お母さんがあなた達を守ってあげるけれども
お母さんはいつもあなた達と一緒にはいられないでしょ。
たとえば、学校にいる時とか…」
そこまで言って、何かが胸に込み上げてきた
幼い娘達にこんな話をしなければならない現実
彼女達がいざという時に自身を守るために
こんな話しかできない現実
危険な精神異常者の手にも簡単に銃が渡ることを許している
社会の中で暮らしている現実
週が明けて
今朝も娘達は黄色いバスに乗って出掛けて行った
この恐ろしい国にありながら
施錠もされず
金属探知機も警備員も見当たらない
あまりにも無防備なその場所に
義務教育という名のもと
私の二人の娘達を委ねる
その小学校には
娘達の他に
六百九人の美しい子供達が通っている
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