「あなた」と「私」に幸あれと/佐々宝砂
 
さて地球のこのあたりはまたも日輪を見失い
「私」は青みがかった夕暮れ過ぎの色彩を見ながら
そろそろ晩飯を作らなければ
いやそれよりも洗濯物をとりこまなければ
などと考えている

するとそこに「あなた」がやってきて
さて今から霧吸の井戸にいこうという
そんな井戸が近所にあるとは
とんと「私」は知らなかったが
私は知っていた
私の近所には霧吹の井戸というものがありまして
つまり霧吸の井戸というのは
霧吹の井戸の名称を裏返しにしただけの私の創作である

まあそれはそれとして
「あなた」と「私」と連れだって
ご近所の城に出かけてみれば
確かになるほど霧吸の井戸と呼ばれる
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