流刑/綾野蒼希
私は今日法廷に立つはずだった
どうやってそこから逃れられたのか
あるいはこの人気のないプラットホームこそ
私の足に踏み潰された新聞は明日のもので
線路の上に猫が一匹迷い込んでいる
友人の携帯電話の電源は切れたままだ
仏間の障子を破った息子は今ごろ
言葉を逆さまに覚えているのだろう
〈がのもいなはでうのき〉
〈るけぬりすをどま〉
駅に来る前に見かけた納屋
そこで若い男が鎌を振り上げる様を
私は自分に向けられた悪意だと感じた
(恐怖は頑なな少女のように
最後の貞操を守っている
その堤を決壊させるのは
むしろあの若者の手ではないだろうか)
何も置かれていない
忘れ去ら
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