アンテナ (高三のころ)/鈴置友也
 
町々を飛びこえてゆく雲の上からは、今日もまばらな民家の屋根の連なりが見渡せる。かすみに透けた淡い屋根瓦の下を、身支度をはじめる人々の息づかいが流れている。その民家の屋根の上、暁の酸化光につややかにのびているアンテナたちは、ながい睡りから醒めたいのちの翅をひろげて、とおくはるかな磁気の波を待ちかまえている。
衛星から流れてくる細いピンの電磁波が、雨あられにさんさんと降り注ぎ、つめたい曲線を描く針金の支柱にキンキンとうち当たる。渇いた土の悲鳴を雨が宥めるように、硬い爪先で擽りながらぼくらの心を揺り起こす。とおく現在を引き離れた意識の覆いを破るように、アンテナはしなやかな躰をたゆませながら霞のうえ、あの音もなく回転する地球儀の鼓動に抱かれている。
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