梢の記憶と杏色/智鶴
思い出しては取り戻そうとしているんだろう
暖かい記憶を創り出すには
僕等はあまりに早足で
世界はもっと何もない
その柔らかい足で潜り抜けるには
過酷すぎるんだ、あまりにも
創っては壊される夜を繋いで
僕は少しづつ嘘を覚えて
忘れられない朝に追い詰められていく
掠れて色褪せた
まるで僕等みたいなジャケットでも
いつかと変わらない音がするよ
きっと
凍える季節に誰かと聞いた
憂いを孕んだ声がするよ
杏の香りの木陰に座る
オレンジ色の影に包まれて
膝に開いた本に目を落とす
僕が取り戻せない世界に生きるなら
未来のことは考えないでおくれよ
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