象牙/草野春心
 


  今宵、風の
  滑るような冷気の端に
  一本の象牙が生えていて



  きみは両手で
  そっと包みこむ
  通り雨の過ぎたあと
  かなしさの残る街の片隅
  電話ボックスの白光の傍ら
  うらぶれた軽自動車を停めて



  それだけを
  ただ見つめている
  僕の
  目蓋がふたつ、不意に
  土嚢のように重くなってゆく    




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