自殺志願の犬/梅昆布茶
 
彼はどちらかといえば
常識的な犬であった

子犬の時代には無邪気さがそのまま
天衣無縫な彼らしさとして愛された

けれど訓練士によって人間の基準を
与えられた代わりに彼は常識的な成犬になった

かつてきらきらしたりぱちぱちはぜたり
ぴいぷう吹いたりして彼を喜ばしてくれたものたちが
なんだか遠ざかっていってしまって

ただ彼はそれがなんであるかを認識し
表現するための言葉をもたなかった

そこはかとない哀しみだけが
月の綺麗な夜にはながく尾を引く遠吠えとなって
そらを駆けるのだ

つぎにくるものを待っていた瞳には
懐旧という色がにじみだしてときにからっぽの
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