自殺志願の犬/梅昆布茶
彼はどちらかといえば
常識的な犬であった
子犬の時代には無邪気さがそのまま
天衣無縫な彼らしさとして愛された
けれど訓練士によって人間の基準を
与えられた代わりに彼は常識的な成犬になった
かつてきらきらしたりぱちぱちはぜたり
ぴいぷう吹いたりして彼を喜ばしてくれたものたちが
なんだか遠ざかっていってしまって
ただ彼はそれがなんであるかを認識し
表現するための言葉をもたなかった
そこはかとない哀しみだけが
月の綺麗な夜にはながく尾を引く遠吠えとなって
そらを駆けるのだ
つぎにくるものを待っていた瞳には
懐旧という色がにじみだしてときにからっぽの
[次のページ]
戻る 編 削 Point(8)