海の誘惑/まーつん
頭がボーっとする
鼻かぜらしい
長椅子に背をそらして
胸の奥から息を吐くと
白い蒸気がもくもくと
汽船のように立ち昇る
僕は突然
大洋の中にいる自分に気付く
月夜の海を航行する一隻の客船
それが僕だ
鋼鉄の身体をくすぐる波の指先
甲板(せなか)の上には大勢の乗客
ニッケル硬貨の輝きを放つ満月が
にやにやと薄笑いを浮かべながら
夜空に張り付いている
そして波の下にはたくさんのサメ
暗い欲望で その眼を黄色く光らせながら
ゆっくりと船の下を回遊している
海が語りかけてくる
゛あなたがその身に乗せたのは
思い出の中の人々よ
あな
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