眇の金魚/高原漣
眉一つ動かさず殺す女神が飼っていた
眇の金魚がいる。
水銀めいて光を反射する鉢を住処に
血の河を泳ぎまわる金魚を飼っている
銀の炎ちらつかす死神めいた女
まっ黒い眼をした、ミシェルモルガンをなおも一つ暗くした
女がたてる靴の音が都会に沈む
しずかに屍は降り積もり
煉瓦を濡らすのは雨だけとは限らない
三度の出会いを超えて生き残るものはなく
潰れた目を奇妙にゆらす眇の金魚が
最期のときにおとずれる
囁くような耳鳴りに
唱和して
赤、が
「魚のえさ、ね」
都会の夜に波紋が音もなく拡がってゆく
そして女も暗くなっていって消えてゆく
眇の金魚だけが
降り積もる屍を喰らい血河を泳いでゆく
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