供述によるとお前は……/木屋 亞万
つまりぼしゃりと液状のものがこぼれる音を聞いた
それは女の心臓だった
胸骨がモンシロチョウのように開いているのをお前は見た
検死官によればそれはまた綺麗に閉じられていたそうだ
女の口元からひと筋の血が垂れて
お前はなぜかそこで女に口づけをした
お前の唇にもまだ女の血が付着したままだ
供述によるとお前は
心臓を何度も胸に戻そうとした
泣きながら何度も何度も
手を血に染めて
声にならない声を挙げて
よだれ鼻水を止めもせず
でも心臓を潰さないように
力加減をしながら
胸骨を開いたのがお前なら
戻すのも容易なはずなのに
お前は皮膚の上から
心臓を押し当てるだけだった
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