ひらら/佐々宝砂
 
ひららが飛んでゐます。

蝶でも 恋文でも 紅葉でもない、
あれはひらら。
まろやかな曲線を描く翅をひらめかせ、
たおやかに灰色の空を飛んでゆく・・・
あれはひらら。
ひらら ひらら ひらら ひらら。

ひららは腹に臓物を持たない。
腹にあるのは寒天質。
薄墨色にぷるると揺れる、
その塊は蛙の卵を思はせる。
確かに何かを孕むでもゐる。

ひららが飛んでゐます。

雷鳴の中、深紅の笑みをふりまいて、
軽やかに、優雅に、愉しげに、
翅にはピエロの笑いを刷りこまれ、
脚には真鍮の錘をはめこまれ、
なほ軽やかに飛んでゆく・・・
あれはひらら。
ひらら ひらら ひらら ひらら。

ひららは飛び続けてゐます。
時の終はりを夢に見て、
時の続きを紡ぎだし。
いつもひららは飛んでゐました。
けふもひららは飛んでゐます。




ほぼ、処女作。16歳のときの作品。
原点に戻るべく投稿してみる。

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