リハビリテーション/佐々宝砂
 
つもりで走れていない
なんとか便器に座る
だだだだだだと
ほとんどなんの抵抗もなく
さっきまで私の一部だった汚水が
トイレに流れ込んでゆく
科学が医学が発達したって
ヒトはこの通りインフルエンザになるのだし
インフルエンザはあいかわらず年寄りには致命的なのだ
後頭部に接続した無線コネクタが
今日のニュースをだらしなく伝えてくる
情報の伝達がどんなに便利になったって
インフルエンザ以上につまらん理由でヒトはヒトを殺し
それはニュースになるらしい
もっと退屈でないニュースはないのかよ
たかがインフルエンザで寝込んで三日
私はヒトの姿を見ていない
そろそろ死んでもいいと思う
もう百三歳だし
いや百六歳だっけか
まあ細かいことはいい
三日じゃなくて
三年あまり
ヒトの姿を見ていない気もする
それもまあどうでもいい
私の体内に蠢く何億かの生物たちよ
おめーらは確かに私の一部で
そして私の友人はおめーらだけなのかもしれない
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