ほんものを見つけるために/綾野蒼希
 
ぼくはこれまでに一度も、
ほんものを所有したことがなかった
ことに気がついた。
かつて幾度も、ほんものらしいにせものや
にせものらしからぬにせものを、
ばかみたいにつかまされてきた。
つかまされていることにすらぼくは鈍感で、
ただどことなく心臓のリズムがおかしいな
とは思っていたけれど。
ほんものの噂はずっと前から聞いていた。
母性の立ちのぼるぬるま湯の中で、
あるいは遺伝子からにじみ出る
希釈のない数式を解く中で、ぼくは、
ほんものを手に入れるためにまず、
にせものに染まるための解答を得たのだ。
それはほとんど正論に近いが
それはほとんど愚かな答えだと
今ならわ
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