北東の水族館/komasen333
 
「キレイ」
そう指差す先にあるものを
同じように
キレイと思えなくなって久しい


自分で精一杯
半径一メートルの事さえボンヤリ
そんな時にも
作為のない共感で
「ほんとキレイだね」と
相槌を打っていた自分がちょっと懐かしい


帰りの地下鉄で
僕らの前に座っていた五十過ぎの男性
両手に荷物をもったおばあさんが来るなり
さっと立ち上がって
無言の右手で席に座るよう促し
隣の車両へ歩いていった


あんな風に
器用に スマートに
これから僕は
キミのために 誰かのために
何かを 真っ直ぐにしてあげられるのかな
「してあげる」
という上から目線を拭い去れるのかな


何一つ不自由なんてないのに
何一つ不自由なんてないからこそ
些細なことで苛立ってばかり
そんな自分にタメ息ばかり


それでもキミは
この心の奥を知って知らずか
狐の嫁入りのような声で
「また、いっしょに行こうね」と
この手をそっと握ってくれた



戻る   Point(2)