新生 デッサン/前田ふむふむ
 
 
          
わずかにからだがゆれている
冷気さえ眠る夜に
自分がふれた蛍光灯のスイッチの紐が
ゆれているのを見て
からだがむしょうにふるえてくる
ずいぶんと経たが
もうなおらない気がする

蜃気楼のように
痩せた牛が足を引きずりながら
道路を横切っている
廃屋の庭にはセイタカアワダチソウが
群生している
うまれたばかりの空
それは きっと
これから名づけられるのだろう

みずのにおいを消し去った
なにもない瓦礫の野で
ひとりの男がなにかを探している
その寂しいすがたに
わたしは 明治四十三年
若かった民俗学者が
少年のような眼で

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