島の火/綾野蒼希
島は一年中寒さに震えていた
そのかわり
言葉と微笑が薪であった
古い柵を壊すことなく
海岸で流木を拾うことなく
ストーブの火は言葉と微笑を
のみ込んだ
我々がそっと火に寄り添うと
火は我々の視界に愛憎を宿す
喉が渇くこと
熱さにおののくこと
何よりも生の祝祭である
朝になれば
灰色の贈り物をかき集める
それを海に流し込むと
魚の大群が波間で
背びれをのぞかせるのである
我々は
触れられるものと
触れられぬものとの領分を
もうとっくに熟知していた
そのために
火は我々の記憶を
時を
跡形もなくのみ込んだ
生命の名を囁きながら
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