遠近感の喪失/綾野蒼希
目の錯覚であろう
一瞬 谷間の言葉と
丘陵の言葉が
隔たりをなくす
負荷をなくし
意味をなくす
あえて平面的に観ることで
多角的なもの
こんがらがったものを
再認識する 再活用する
手前の蝶が
遠くの山腹に張りつく
遠くの家の破風が
手前の柿の木に支えられる
遠近感を喪失させることで
呼び起こす 実感の種
一瞬 私の心と
彼の心が
隔たりをなくす
負荷をなくし
意味をなくす
そして少しずつ景色は剥がれ
言葉も剥がれ 私達も剥がれ
実感の種のみ残る、
ある日の夕暮れ
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