日曜日の夜/はるな
ひとだった。
指がながくて、すてきだった。
はじめて会う前から、すでに彼のことを好きだった気がする。
黒猫が描かれたラベルの安いワインは、彼よりももっとずっと前に知り合った男のひとが教えてくれたワインだ。
そのひとのことも好きでしょうがなかった。でも今は、たまにこうして、黒猫のワインを見るごとに思う程度だ。それも、過ぎ去った良い時間として。もう終わった良きものとして。
スポーツニュースを流しっぱなしにしたまま、ソファで夫が寝息を立てている。あまりに穏やかな、絶望的なくらいに穏やかな、毎日訪れる奇跡。
(夫は、好んではワインをのまない)。
こっちが日常だ、と、口に出してつぶやけば、たちまちすべてが嘘のように思えてくる、日曜日の夜。
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