灯台/綾野蒼希
 
その灯台には灯台守が不在だった
しかし夜になると明かりがともり
海峡の向こうの
いくつもの遭難船を導いた

(遭難船からは
 漁期をのがした青白い
 懐かしい人々がぞろぞろと
 つむぎ出されてきた)

深くよどんだ水の上に
過去が 思い出が層をなして
ゆらゆら揺れていた

灯台のともしびの条件は
軌道を逸した流れ星の落下とも
浮氷の輝きの反射とも言われるが
詳しいところはわからない

懐かしい人々は納屋に行き
ストーブの火をおこし
かじかんだ手や
凍った吐息をなだめた

彼らには足跡がなかったが
個人的な話があった

話し終えた者から先に
ふたたび灯台の方へ戻っていった

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