光/由比良 倖
鏡にはいつかの惨状。死相の上に私をなぞる。コーヒーを温める。ひとり分の充足で世界が変わるの? 押し売りできるのは不幸だけだから、私はとろとろまどろむ。感覚(気体。私は、世界の前世を思う。それはきっと、ここと同じように、悲しかったのだ。
(この時間駅で轢かれる魂は不問に帰される。僕は限度額一杯に過去を凍結してレールの上で含み笑いを抑えきれずにいる。
私はただスピードが欲しいのだと言ったら君は笑うだろうか。
部屋をきちんと片付けて、例えば本棚なんかを小一時間視界で撫でさすり、私の「死」が、この部屋、私のうちの空気に馴染んでくれればいいのだがな、と思う。人為的な信号が私をむかつかせる。夢の中では私の浮力は地球でさえも引き揚げてしまうの。
(「現実なんて。ねえ、そんなのは大したことじゃないんだよ」)
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