A/ピッピ
 
棺桶を開けるとそこには見知った筈の大きな顔と、見知らぬ血色があるばかりで、周りには花なんか添えられているし、ついつい「久しぶりだなあ」と場違いな言葉が喉を震わせた。本当はこんなところに来たくなんかなかった、というのが正直なところで、昔好きだった人が自分の見えない場所で幸せになってほしいと思うように、どうせ過去になってしまうのであれば、自分の知らないところで時間が経過してほしい、「あいつ元気でやってるのかな」、それくらいの距離感でうまくやっていく筈だったのに、突然あいつの歴史がぶちんと切れて、その切り口だけをこうやって見せつけられている、それが苦痛でなければ何だというのだろう。あいつを、仮にAと呼ぶ
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