柿の木/草野春心
 


  秋の途中
  枯れたような空の下に
  一本の柿の木が侘しげに立っていて
  きみがそれを見上げている
  もう、少し皺のついてしまった
  グレーのコートに身を包んで
  甘みと渋さを曖昧に孕んだ
  橙色の果実は穏やかな風に揺れ
  けれどもけっして
  きみの手に落ちてくることはない



  昨日は強い雨が降った
  銀の骨の折れたビニール傘が
  惨めな犬みたいに草むらで死んでいる
  赤いベンチは冷たく湿っているから
  ぼくたちは座ることなく
  その柿の木を見上げつづける




  きみの眼は青空を映す
  永遠は少しずつ遠くなる
  雲の流れにそって、ゆっくりと
  そしてくすんでいってしまう  
  穏やかな風に
  透明な光の薄皮は剥がれて
  きみの唇にそっと被さる
  永遠は
  遠くなる
  僕のそばで
  健やかにうしなわれてゆく




戻る   Point(2)