ありふれた帰途/御笠川マコト
 
シースルーエレベーター
不揃いなビルの列
ぼやけて見えるのは
雨のせいだけじゃない

愛を惜しんだ者に
背中を追う資格はない
傷を怖れた者は
不平を口にしてはならない

地下街に抜けて
人並みに紛れ込む
そう、子供の時から
人混みに安堵している

愛を惜しんだ者に
誰も声を掛けない
傷を怖れた者は
涙ぐむことすら許されない

だから
擦り切れた革の鞄を脇にはさんで
急ぎ足で
何処かに帰る
惨めな顔を上に向けて
僕が僕であった今日を
ふわっと終えるために。

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