秋を見つめてみませんか 三篇 (想起させるものに、忠実に)/乾 加津也
 
街で


首を竦めてぼくはひとり歩いていたのですが。
日暮れ色で賑わう通りでは
うっかりしていると
さっさと擦れ違ってしまいます
だぶだぶな外套(オーバー)に身をつつみ
壁のような背中を丸めて歩く性急(せっかち)な秋に。







いったいに秋といふ奴は!
空壜から右手を振って夏にさよならをする孤独(ひとり)者
スプーンいっぱいに盛った足音を傾けながら
「まったくわたしの実在のありかたによっては、」
といふ怪盗。

いったいに秋といふ奴は!
寒のはじめに時計塔を見あげて梯子をかける
昇るつもりで降りている
とき刻みのアヴェニューを
(背後に
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