花団地 (かだんち/《81》柴田望
 
曲のように飛び交い

ベランダじゅう、絨毯や畳まで

棟全体が 花畑 になってしまい

とにかく陽あたりも良かった

うちの子のはしゃぎ声が響き渡り

いいのよ、お互い様だから、と笑って

お隣さんはお菓子をくれた



花団地 では

大きな津波にのまれたので

建物は瓦礫になってしまった

だが、あの 透きとおる美しい壁 は

もともと目には見えないので

決して朽ちることがない

生きのこった人たちは小学校の体育館で

だれもが壁のないお隣どうし寝泊りしている

津波は あっ、という一瞬の出来事で

うちの家族とお隣は

ぜんぜん気づかなかったので

決して荒らされることのない

花畑 で今日もみんな笑っています





2012-10-29  【81】
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