境界A/緋月 衣瑠香
 
いる

出るはずだったマラソン大会
主治医も出るらしいけどあの人より絶対早く走れる自信があった
なんて
笑いながら病院帰りに参加賞を貰って帰ってきた
少しだけ父の背中が小さくしぼんで見えた

私の全器官は吸収力をおさえることはない
ひたすら父から母からその周りの人から
ぐんぐんと吸いこんでいく
花は咲くのだろうか実はなるのだろうか

二十回目の誕生日に
再びビーフシチューを口にした
私は笑っている
父も母も兄も 笑っている

その間も私は止まらない
誰も止まらない

花もましてや実もつくか分からない
だから
もう少しだけ
もう十分たくさん貰ったから
もういらないから
その背筋がそのままであるように
子供のままで大人であろうと

鏡の中の私は赤いようで青い
知るものか

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