漂着物。/元親 ミッド
 



ふと見ると、砂浜には、
片方だけのビーチサンダルがぽつんとあった。
もう片方は、どこだろう?
辺りを見まわすが、
あるのは砂浜に打ち上げられた
名も知らぬおびただしい貝殻と
いくつかの霞んだガラスの破片、
乳白色のイカの軟骨、それにつぶれたゼリーだけだった。



沖に目をやると
遠くに小さくタンカーが浮いている。
きっと、あのタンカーが
誰も知らない遠い国へと
あの夏の思い出たちをも運び去ってしまうのだろう。



この10月の海に、独り取り残されてしまった男は
どうしょうもなく
ただどうしょうもなく
立ち尽くしていた。



海風が髪をもみくちゃにしても
立ち尽くしていた。



もしかすると動けなかったのかもしれない。
目をそらし続け、逃げてきた分だけ
寂しさは、大きな塊となって
まとめて10月の海岸に漂着した。
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