冬髪/葉月八日
凍る舌苔が擦れあう
蟻の蘇生のような精密さで
「植物園は愚かである」
そう言って祖父は息を引き取った
(半熟の花粉を舐めとったのは誰だったのだろうか?)
叔母の潰れた踵によると
「閑日」には挿絵がつくらしく
剥離の庭には
廃棄したはずの群青だけが居残っていた
森の縫い目をほどきながら
まるで本当のことのように
のぼり詰めていく
泥にまみれた瞼を捨てていこう
(おりこうな由来さえあればいい)
蒸れた檻に傘をかざして
(その気配さえあればいい)
腐葉土を齧り尽くして
透明な底を知る
こじつけた頁は甘かったのに
(それでも)
不実の鞄を抱えたまま
練った鏡の島で滲んでゆく肌が
縫い付けられた問いを保って
仏花にちなんだ君の名だけが這う
蜂の根の数珠が
仄かを羽織っていく
遠巻きに透ける喉が
とるにも足らぬあの日に凍って
似通っていく
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