雨は降り、風は吹き、虫はどこからでも出ていく/ホロウ・シカエルボク
思うと、出口を探して家のどこかへ飛び去っていった、無駄だよ、と俺は答えた、窓はすべて施錠してある、アリの這い出る隙間ひとつない…あんた本当にそう思うのか?と平安貴族の男が俺に問うた、狂言の役者みたいによく通る声をしていた、覚えておきなさい、虫はどこからでも出ていき、また入ってくることが出来るよ、と、彼は続けた、隣の女はにこりともせずに、ただ二度ほど頷いただけだった…俺はそのまま少しの間眠り、目を覚ました時には苦しんだことなどすっかり忘れてしまっていた。
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