【批評祭参加作品】偽善、または『紫苑の園』/佐々宝砂
 
はすこしかなしい。「ほんたうのしあはせ」と何度繰り返しても、「ほんとうに悪よりは善でいたいんだ、ほんとうに、ほんとうに、ほんとうに、ほんとうに」と何度繰り返しても、信じない人は信じないのだろうし、信じられないのだろう。かなしいのはその「信じない人」の不幸が私に伝染するからだ。かなしいのが少しだけなのは、その「信じない人」と私に深い関係はないからだ。

 なんたかんだ言って、私はわりあい幸福なのだと思う。幸運ではないにしても。
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